相続と暮らし
相続する財産がほぼ実家だけ。きょうだいでどう分ける?
家を残す希望と、現金の必要。両方を並べて分け方を考えます。
実家が財産の中心なら、家の評価額と現金の準備を一緒に考えることが大切です。一人が引き継ぐ、売って分ける、共有する案を、暮らし・費用・将来の管理まで比べましょう。
「家を継ぐ人が、ほかのきょうだいへお金を払う」と聞いても、いくら必要なのか、家の値段をどう決めるのかで話が止まることがあります。住みたい気持ちと思い出だけでは決めにくい実家の相続を、具体的な数字と手順に分けて整理します。
制度は2026年11月4日時点の公表情報を確認しています。家族の合意を作るための準備として、比較する金額と相談する順番を押さえましょう。
1最初の確認
「家を半分にする」の前に、財産と希望を並べる
親の財産がほとんど実家だけだと、「きょうだいで半分ずつ」と言っても、その場で分けられる現金がありません。一人は住み続けたい、もう一人は教育費や住宅ローンのために現金が必要、と希望が分かれることもあります。家の値段だけでなく、住まいと現金の両方を話題にすることが出発点です。
まず、家の名義、預貯金、借入れ、ほかの土地や建物、遺言の有無を確かめます。実家が親の単独名義とは限らず、亡くなった祖父母の名義が残っていることもあります。話し合う相手や手続きが変わるため、戸籍や登記の資料をそろえて、相続人と対象となる財産を確認します。
そのうえで、各人が「住む予定」「現金が必要な時期」「管理に関われる範囲」を別々に書きます。家を残したいという希望と、自分が住む予定があることは同じではありません。誰も使わないまま維持費だけが続く案になっていないかも、最初に見渡しましょう。
2家の値段の違い
査定価格、税の評価額、売却後に残る額を混ぜない
実家の資料には、固定資産税の評価額、不動産会社の査定価格、相続税の計算に使う評価額など、複数の金額が登場します。それぞれ目的が違い、同じ数字になるとは限りません。固定資産税の通知書に書かれた額を、そのまま「売れる値段」として使うと、話し合いの前提がずれます。
分割の相談では、どの金額を基準にするのかを共有します。不動産会社には、査定額の根拠、建物の状態、土地の条件、売却までの期間も聞きましょう。査定は成約の約束ではありません。価格の幅が大きいときは、もう一社の意見や不動産鑑定士への相談など、比較の材料を増やします。
売る案と比べるなら、売却代金から仲介、片付け、必要な修繕、税などを差し引いた手残りも必要です。見積書がまだない費用は「概算」と分け、誰が立て替えるかまで記録します。税の評価と分割時の評価の関係は税理士に確認し、家族が話し合いやすい数字と申告に使う数字を整理します。
| 金額 | 使う場面 | 確認すること |
|---|---|---|
| 査定価格 | 売却の検討 | 条件・時期・価格の幅 |
| 分割で合意する評価額 | 家族間の分け方 | 何を根拠に合意するか |
| 税の評価額 | 相続税などの計算 | 税目ごとの評価方法 |
| 売却後の手残り | 生活資金の計画 | 費用・税・借入返済後の額 |
3主な分け方
一人が引き継ぐ、売る、共有する。それぞれの負担を比べる
家の分け方には、家を一人が取得してほかの人が別の財産を取得する方法、家を取得した人がほかの相続人へ金銭などを渡す代償分割、売却して代金を分ける換価分割、共有する方法などがあります。土地の条件によっては分筆を検討することもありますが、測量や法令上の制約、売りやすさの確認が必要です。
住み続けたい人がいるなら、代償分割は比較したい案の一つです。ただし、その人が代償金を用意できるかが大きな分かれ目になります。家を取得できても、支払いのために生活費や老後の備えを使い切ってしまえば、その後の暮らしが不安定になります。
誰も住まないなら売却後に分ける案も考えられます。共有なら当面売らずに持てますが、管理費の負担、利用方法、将来の売却をその後も共同で決めることになります。「今日の話を終えるため」だけで決めず、数年後の手間まで比べることが大切です。

4代償金の計算例
家はあるけれど現金が足りない、を数字にしてみる
例:相続人が子ども二人だけで、借金やほかの財産はなく、実家の分割上の評価額を2,400万円、預貯金を200万円として合意したケースを考えます。二人が同じ額を受け取る案なら、合計2,600万円の半分は1,300万円です。ここでは税や手続き費用を含めず、分け方だけを計算します。
兄が実家2,400万円を、妹が預貯金200万円を取得するだけでは、取得額に差が残ります。兄から妹へ1,100万円を渡せば、兄は家2,400万円から負担1,100万円を引いた1,300万円、妹は預金200万円と受け取る1,100万円の合計1,300万円となります。
この例で重要なのは、兄が別に1,100万円を用意する必要があることです。家の価値が高いほど、必ず支払いが楽になるわけではありません。手元資金、借入れの可否、返済の見通しを確認し、用意できないときは分割方法や取得範囲を見直します。
家を取得した後には、固定資産税、火災保険、修繕などの支払いも続きます。代償金を払った直後の預貯金だけでなく、今後一年の支出と、数年以内に必要になりそうな工事も並べます。受け取る側も、引っ越しや住まいの購入などで資金を必要とする日を伝えると、支払時期を具体的に相談できます。
例:二人で同じ額を分ける目安
(実家2,400万円+預貯金200万円)÷2人=1人1,300万円。
例:家を取得する人が用意する代償金
実家2,400万円−取得額の目安1,300万円=1,100万円。
5割合と合意
法定相続分だけで、具体的な分け方が決まるわけではない
法定相続分は民法で定める割合ですが、相続人全員が合意すれば、必ずしもその割合どおりに財産を分ける必要はありません。ただし、誰が相続人か、遺言があるかなどの確認を飛ばして、集まった家族だけで分けることはできません。まず話し合いの参加者と前提を確定します。
介護をしていた人、親から援助を受けた人、同居していた人では、納得の基準が違うことがあります。「介護したから家を全部もらえる」「長男だから家を継ぐ」と決めつけると話が進みません。支出や援助の記録と、本人の希望や気持ちは分けて整理すると、確認する点が見えます。
寄与分や特別受益などの法律上の扱いが問題になる場合は、金額や資料を持って弁護士などに相談します。意見が合わないまま署名を急がず、遺産分割調停などの手続きも確認できます。片付けの期限と分割の結論を同じ日に押し込めず、保管や管理だけ先に決められるか相談しましょう。
7書面と費用
代償金の約束は、金額だけでなく支払方法まで
代償分割で合意する場合は、誰がどの不動産を取得し、誰にいくら、いつ、どの方法で支払うかを整理します。口約束のまま名義だけ変えると、支払いが遅れたときに困ります。分割払いを考えるなら、支払期間中の事情の変化や未払いへの備えも含め、書面の内容を専門家に確認してもらいます。
代償金の額が決まっても、そのまま相続税の計算に使えるとは限りません。不動産を分割時の時価で評価した場合と相続税評価額との関係など、課税価格の調整が必要になることがあります。家族間の計算表、査定書、合意内容をそろえて税理士に相談すると、説明の重複を減らせます。
代償として、自分がもともと持っていた不動産を渡す場合にも注意が必要です。渡す側の譲渡所得税が問題になるため、現金で渡す場合と同じと考えないでください。家族間で案を固める前に、税金と登記費用を含めた負担を確認しておくと、合意後の見直しを減らせます。
8登記の期限
分け方の相談中も、相続登記の期限を確認する
相続で不動産を取得したことを知った日から、原則3年以内に相続登記の申請が必要です。2024年4月1日より前に取得を知っていた未登記の不動産は、原則2027年3月31日が期限です。家族の話し合いが終わるまで、何もしなくてよいわけではありません。
遺産分割がまとまらず期限内の相続登記が難しいときは、期限までに「相続人申告登記」で基本的な申請義務を果たす方法などを法務局や司法書士へ相談できます。相続人申告登記は、誰がその不動産を取得したかを確定する登記ではなく、そのまま売却できる手続きでもありません。
相続人申告登記などを行った後に遺産分割が成立した場合、不動産を取得した相続人は、原則として分割成立日から3年以内に、その内容に沿った登記をする必要があります。基本の義務と分割後の義務を分け、取得を知った日、分割成立日、済ませた登記を一覧にして確認しましょう。
| 状況 | 原則となる期限・対応 |
|---|---|
| 相続による取得を知った | 知った日から3年以内に申請 |
| 2024年4月1日より前に取得を知っていた | 未登記なら2027年3月31日まで |
| 期限内に遺産分割がまとまらない | 相続人申告登記等を法務局・司法書士へ相談 |
| 申告登記等の後に遺産分割が成立した | 分割成立日から3年以内に内容に沿った登記 |
9家財の扱い
家の名義と、家の中の物は別に確認する
不動産を誰が取得するか決まっても、家財や通帳、貴金属、写真などの扱いがすべて決まったとは限りません。家の引渡しまでに残す物、分ける物、処分する物を一覧にし、判断する人を明らかにします。仏壇や位牌など、供養や承継の相談が必要な物も別に取り上げましょう。
整理業者へ見積もりを頼む段階では、依頼者だけで処分を決められる範囲を確認します。争いがある物や所有者が不明な物は、保留品として写真と置き場所を記録します。見積もりを取ること、契約すること、実際に処分することを分けると、話し合いを待ちながら準備を進められます。
売却を選んだ場合も、すべてを先に撤去すればよいとは限りません。設備や残置物の扱い、内覧時の状態、引渡しの条件を不動産会社と合わせます。相続放棄を検討している人がいる場合は、売却や処分を進める前に弁護士などへ確認し、財産を動かす判断を切り離してください。
- 1
財産と関係者を確かめる
名義、遺言、相続人、家以外の財産・借入れと、登記の期限を確認。
- 2
家と現金を同時に比べる
住む希望、評価の根拠、代償金や費用を並べる。
- 3
合意内容を文書にする
取得する財産、支払い、管理、手続きの担当を整理。
- 4
決めた範囲から家財整理へ
処分できる範囲と保留品を共有し、見積もりを取る。
10相談前のメモ
結論を急ぐ前に、一人ずつ希望を一枚に書く
最初の話し合いで結論まで出す必要はありません。一回目は財産と希望の確認、二回目は査定や見積もりの共有、三回目は専門家の説明を踏まえた案の比較、と分けても進められます。話が感情的になりやすいときは、その日に決めることを一つに絞ります。
誰か一人だけが資料や専門家の説明を持っていると、ほかの人が判断しにくくなります。資料の日付、まだ確認できていない点、次に聞くことを全員に共有しましょう。査定価格が変わったときは古い計算を消さず、条件をそろえた新しい表を作ると、比較の経緯が残ります。
トリセツへの片付け相談には、家の場所、使い方の予定、家財の量、整理の期限、処分について家族で合意できている範囲を伝えます。相続の結論と家財整理の段取りをつなぎながら、一度にすべて決めようとせず、今確かめられることから進めていきましょう。

家族で共有する、実家の分け方メモ
手元のノートに写すか、印刷して使えます。分からない欄は「未確認」で構いません。
- 確認した財産
- 実家の名義:__/預貯金:__/借入れ:__/ほかの財産:__
- 一人ずつの希望
- 住む予定、現金が必要な時期、管理に関われる範囲。
- 比較する金額
- 査定の根拠・日付、分割の評価額、代償金、諸費用。
- まだ決めないこと
- 処分を保留する家財、意見が分かれる点、専門家への質問。
実家の登記資料と固定資産税の通知書を探し、家族それぞれの希望を一行ずつ書いてみましょう。
11相談先と準備
相談する相手と、持参する情報を分ける
分け方や争いは弁護士、登記と期限は法務局・司法書士、評価や課税は税理士へ相談します。登記資料、遺言、財産・借入れの一覧、家族の希望、取得を知った日をそろえましょう。
処分について家族で合意できた範囲を示せば、実家の片付け・買取の見積もりをトリセツへ相談できます。
